英語の「I」は日本語で「私」と訳されることが一般的です。逆に日本語の「私」、「僕」、「俺」、「あたし」等はすべて「I」に訳されます。なぜ一つにまとまるのでしょうか?
これには日本と欧米の「社会」が関係しています。今回は「私」を意味する「I」について考えていきます。
「私」は動くが「I」は動かない
日本語の「私」、「僕」、「俺」、「あたし」は英語ではなぜすべて「I」になるのでしょうか。これは英語は相手との関係が常に対等な言語だからです。
例えば、夏目漱石の「吾輩は猫である」を英訳すれば、「I am a Cat」になります。
日本語では「自分」を表すのに、いろいろな言い方があります。年功序列型の「タテ社会」の日本では、相手と自分との関係を常に意識し、またその人の年齢、性別、身分などによって、その場にふさわしい人称代名詞を使います。
ですが、こうした身分や性による言葉の別のない「ヨコ社会」の欧米では、誰に対しても「自分」は常に対等な立場に立つために、「I」になります。
例えば、次のような日本語を英語に訳してみると分かりやすいです。
私はこの会社で働きたいのです。
⇒I'd like to work for this company.
僕はもうクタクタだよ。
⇒I'm now worn out.
あたし、あなたなしでは絶対生きられないの。
⇒I simply can't live without you.
俺をだれだと思っているんだ?
⇒Who do you think I am?
おら、こんな村いやだ。
⇒I can't stay in this village.
お母さんはあなたのためを思って言ってるのよ。
⇒I'm saying this for all your sake.
「I」なくしては英語は語れない
日本では「僕」は友達同士などで使い、目上の人に対しては自分のことを「僕」と言ってはいけません。「私」と言うのが一般的だと思います。
ですが、元来「僕」は、「僕(しもべ)」「下僕(げぼく)」のことであり、このように自分を卑下した言い方でも、対等な立場の人にしか使えないというのは外国人にとっては理解しづらいところではないでしょうか。
日本人は、自分をできる限り小さくし、また自分を表に出さないようにする生き方をしてきたので、言葉の上でも「主語=私」を出さない表現が多い。反面、自己主張が重要である欧米人の場合には、「I」を表現することが必要になってきます。
ですので、次の例文のように、日本語では省略できる主語も、英語では省略はできないのです。
お願いしたいことがあるのですが。
⇒I'd like to ask your favor.
駅へはどう行ったらいいですか?
⇒How can I get to the train station?
もう十分いただきました。
⇒I've had enough.
またお会いできるのを楽しみにしております。
⇒I'm looking forward to seeing you again.
「I」はなぜいつも大文字で書く?
ところで、私たちは英文を書く時に、「I」は常に大文字で書いていると思いますが、なぜでしょうか。
そう書くものだと教えられているので、それほど疑問に思ったことが無い人も多いと思います。
これは自己主張の強い欧米人の国民性の表われであるなどとこじつけられることもありますが、実は理由は簡単で、小文字の「i」は文中で単独で用いると小さすぎて紛らわしく、見にくいためだからです。
ちなみに、英語のアルファベット26文字の中で、1文字で一語を作り上げる文字が3つあります。
上記の「I」と、不定冠詞の「a」と、間投詞の「O」です。「a」は活字にしても一応、文字としての形を成していますが、「O」は小文字で書くと小さい丸とも間違いやすいために、必ず大文字で使われます。
普段あまり気にせずに文章を書いていると思いますが、改めて言われてみるとそうだと気が付くのではないでしょうか。
今回は以上になります。